蟻の行方

7時に目覚ましを止め、8時に起床する。身支度を済ませたところで力尽き、昼までソファーに横になって過ごした。うたた寝からさめると雨が降りだして体も頭も重たいのでテイラックを服用し、ヨーグルトにジャムを混ぜて食べる。

だんだん調子も戻ってきて、パソコンを起動する。めったにやらない伝票入力が、めったにやらない分新鮮に楽しくしばらく集中してキーボードをたたく。仕事は、取りかかりさえすればいつのまにか夢中になる。仕事に関わらず、炊事とか洗い物もそうで、なのに手をつけるまでのあの億劫さは一体何なんだろう。

ベランダで煙草を吸っていると蟻が歩いている。2階なのにどこから来るんだろうなと思いながら観察を続けると、壁を登りはじめた。蟻はまっすぐには進まない。ほぼ平らに見える壁はよく見ると材質による凹凸があって、蟻はその凹凸の谷や山をうまく迂回しながら少しずつ上を目指している。ようやく手すりにたどり着くと、休むことなく外側の壁を下りはじめてすぐに見えなくなった。どこから来るのかはわかったけれど、どこへ行くのかはわからないなと思う。

夕飯を食べ終え、21時少し前に散歩に行こうかと誘われる。部屋着を着替えて玄関を出ると、雨が降りはじめていて、傘をさして歩いている人が通り過ぎるのが見えた。散歩は諦め、また部屋着に着替え直してしばらく本を読む。

滝口悠生の寝相に収められている楽器という話を今は読んでいて、「〜ということがあったけれど、はたして本当にそうだったかはわからない」というような描写が頻繁に出てくる。登場人物が揃って「わからない」と言うので、私はもちろんもっとわからない。忘れかけられている出来事を手渡されても私に出来ることはなにもなく、あるのかないのかはっきりとしない情報ばかりが流れ込んでくるのがとても面白い。